産後のホルモンバランス|体調の変化や対策などを解説

産後の体調不良やメンタルの不調に悩まされる女性は、決して少なくありません。

産後の体調の変化は、ホルモンバランスの急激な変化が原因の可能性があります。

ホルモンバランスの変化はイライラや気分の浮き沈みだけでなく、肌荒れや抜け毛など美容にも悪影響をおよぼすことがあります。

そのため、心身の変化に応じた適切な対策を講じる必要があります。

本記事では、産後のホルモンバランスが乱れる原因から、 具体的な症状、今日からできる対策までを詳しく解説します。

産後のデリケートな時期だからこそ、 自分の心と身体をいたわりながら、健やかな毎日を送りましょう。

産後のホルモンバランスが乱れる原因

産後の体は、妊娠・出産という大仕事を終え、一気に変化が訪れた状態です。

ホルモンバランスが乱れる原因は以下のとおりです。

  1. エストロゲンとプロゲステロンの急激な減少
  2. プロラクチンの分泌
  3. 睡眠不足と疲労
  4. 育児のストレス
  5. その他の要因

特に産後のホルモンバランスは乱高下が起こりやすく、さまざまな不調の引き金になります。

本章では、代表的な原因について順を追って詳しく解説していきます。

【原因1】エストロゲンとプロゲステロンの急激な減少

妊娠中は、胎盤からエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)が大量に分泌されていますが、出産後に胎盤がなくなることで、この2つのホルモンは急激に減少します。

この急激なホルモンレベルの低下が、産後の心身に大きな影響を与えると考えられています。

エストロゲンは、女性らしい体つきを維持したり、自律神経を安定させたりする働きがあるホルモンです。

対してプロゲステロンは、妊娠を維持したり、子宮内膜を安定させたりする働きがあります。

それぞれのホルモンの役割と影響を以下にまとめました。

ホルモン妊娠中の役割影響
エストロゲン女性らしい体つきの維持・自律神経の安定気分の落ち込み・イライラ・自律神経の乱れなど
プロゲステロン妊娠の維持・子宮内膜の安定精神的な不安定・不眠など

このように、産後はホルモンバランスの急激な変化によって不調が出やすくなるため、適切にケアしていくことが大切です。

【原因2】プロラクチンの分泌

プロラクチンは、母乳の分泌を促すホルモンで、出産後に多く分泌されます。

一方で、プロラクチンには排卵を抑制する働きもあるため、エストロゲンの分泌をさらに低下させ、ホルモンバランスが乱れやすくなる可能性があります。

プロラクチンの分泌量には個人差があり、母乳育児の期間や授乳の回数によっても変動するので、授乳中は体調の変化に注意しましょう。

【原因3】睡眠不足と疲労

産後は、授乳やオムツ替えなど、昼夜を問わず赤ちゃんのお世話に追われる日々が続くものです。

そのため、慢性的な睡眠不足に陥りやすく、心身に疲労が蓄積しやすくなります。

睡眠不足や疲労は、ホルモンバランスを乱す大きな原因です。

特に、睡眠不足は自律神経のバランスを崩し、ホルモン分泌をコントロールする脳の視床下部に悪影響を及ぼします。

【原因4】育児のストレス

初めての育児は、わからないことだらけで、不安やストレスを感じやすいものです。

赤ちゃんが泣き止まない、思うように家事ができないなど、小さなストレスが積み重なり、心身に負担がかかります。

こうしたストレスは、自律神経を乱し、ホルモンバランスにも悪影響を及ぼします。

さらに、ホルモンバランスの乱れに加えて、育児の不安やストレスによって産後うつ病のリスクも高まるため、注意が必要です。

【原因5】その他の要因

上記以外にも、以下のような要因が産後のホルモンバランスの乱れに関与していると考えられます。

栄養バランスの偏り産後の体は栄養を必要としていますが、食事が偏ることでホルモンバランスが乱れやすくなります。
体の冷え体が冷えると血行が悪くなり、ホルモンバランスが乱れることがあります。
産後の体の変化出産によって骨盤が開いたり、体型が変化することも、ホルモンバランスに影響を与える可能性があります。

これらの要因が複合的に作用すると、産後のホルモンバランスは大きく乱れることがあります。

そもそもホルモンバランスの乱れは、産後に限りません。

日々の生活習慣の乱れ・ストレスの蓄積・更年期など、ささいなことでもホルモンバランスは乱れます。

日ごろから自分の体調をチェックし、早急に対策を講じるように心がけましょう。

産後のホルモンバランスの乱れによる症状

産後のホルモンバランスの急激な変化によって引き起こされる症状は、以下の通りです。

  1. イライラや気分の浮き沈み
  2. 生理不順
  3. 疲労感や不眠
  4. むくみ
  5. 肌荒れ
  6. 抜け毛

これらの症状は個人差があり、すべての人に当てはまるわけではありませんが、多くの女性が経験する一般的な症状として知られています。

【症状1】イライラや気分の浮き沈み

産後、エストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンの分泌量が急激に低下します。

これらのホルモンは、精神面にも深く関係があり、ホルモンバランスが乱れると、些細なことでイライラしたり、突然悲しくなったり、気分の浮き沈みが激しくなることがあります。

気分の浮き沈みは一時的なものですが、ひどい場合は産後うつにつながる可能性もあるため、注意が必要です。

【症状2】生理不順

生理不順も、ホルモンバランスの乱れによって起こる症状の一つです。

産後は、プロラクチンと呼ばれるホルモンが分泌され、母乳の生成を促します。

プロラクチンは、排卵を抑制する働きがあるため、生理が再開するまでに時間がかかったり、生理周期が不安定になることがあります。

特に母乳育児の場合は、さらに再開まで時間がかかる傾向があります。

授乳をしていない場合でも、ホルモンバランスが整うまでは生理不順が続くことがあり、以前とは経血量や生理期間が異なることも珍しくありません。

【症状3】疲労感や不眠

ホルモンバランスの乱れは、疲労感や不眠を悪化させる要因にもなります。

出産を終えた体は、想像以上に疲弊しています。

さらに、産後は休む間もなく育児に追われるため、慢性的な睡眠不足に陥りやすくなるものです。

精神的なストレスも重なり、心身ともに疲労困憊してしまう方も少なくありません。

出産後はホルモンバランスの乱れに加え、さまざまな要因が疲労感や不眠を悪化させるため、特に注意しましょう。

【症状4】むくみ

妊娠中に体にたまった水分が、産後に体外へ排出される過程で、むくみが生じやすくなります。

また、ホルモンバランスの乱れによって自律神経が乱れ、血行不良になることもむくみの原因です。

特に、足や顔がむくみやすいと言われており、「朝起きた時に顔がパンパン」「靴下の跡がくっきり残る」といった症状が現れる場合があります。

【症状5】肌荒れ

産後のホルモンバランスの乱れは、肌のバリア機能を低下させ、乾燥やニキビなどの肌荒れが起こりやすいです。

エストロゲンの減少によって、肌の水分量を保つ力が弱まるほか、プロゲステロンの増加により、皮脂の分泌が促進され、ニキビができやすくなります。

加えて、育児による睡眠不足やストレスも、肌荒れを悪化させる原因となります。

【症状6】抜け毛

ホルモンバランスの乱れは、抜け毛の原因にもなります。

妊娠中は、髪の成長を促すエストロゲンの分泌量が増加し、髪の毛が抜けにくくなります。

しかし、産後はエストロゲンの分泌量が急激に減少するため、妊娠中に抜けなかった髪の毛が一気に抜け始めます。

これは、産後脱毛と呼ばれ、多くの女性が経験する症状です。

一般的には、産後3カ月頃から始まり、半年から1年程度で自然に回復することが多いとされています。

とはいえ、個人差もあるため、抜け毛が続くようであれば、育毛剤を使用してみたり、専門医に相談するのがおすすめです。

産後のホルモンバランスを整える8つの対処法

産後のホルモンバランスの乱れは、放っておくとさまざまな不調を引き起こす可能性がありますが、適切な対策を行うことで改善が可能です。

本章では、今日から実践できる以下の方法をご紹介します。

  1. 食事でホルモンバランスを整える
  2. 睡眠の質を高める
  3. 適度な運動で心身をリフレッシュする
  4. リラックスできる時間を作る
  5. 家族や友人とコミュニケーションを取る
  6. 日光浴でセロトニンを活性化させる
  7. 適切なサプリメントを摂取する
  8. 専門家に相談する

いずれの方法も、手軽に実践できるものです。

ホルモンバランスの乱れに悩んでいる方は、ぜひ実践してみてください。

【対処法1】食事でホルモンバランスを整える

バランスの取れた食事は、ホルモンバランスを整える上で非常に重要です。

特に、以下の栄養素を積極的に摂取するように心がけましょう。

タンパク質筋肉や血液を作る上で欠かせない栄養素です。
肉・魚・卵・大豆製品などに豊富に含まれています。
タンパク質は健やかな髪を実現するためにも必要です。
鉄分産後は鉄分が不足しがちです。
貧血予防のためにも、レバー・ほうれん草・ひじきなどを積極的に摂りましょう。
カルシウム骨や歯を丈夫にするだけでなく、神経の安定にも関わります。
乳製品・小魚・海藻類などを意識して摂りましょう。
ビタミンB群エネルギー代謝を助け、疲労回復効果があります。
豚肉・レバー・玄米などに多く含まれています。
食物繊維腸内環境を整え、便秘解消に役立ちます。
また、栄養の吸収効率を向上できます。
野菜・果物・きのこ類・海藻類などを積極的に摂りましょう。

また、白砂糖や添加物の多い食品は、ホルモンバランスを乱す原因となる可能性があるため、できるだけ控えるようにしましょう。

温かい食事を食べることで、体を冷やさないようにすることも効果的です。

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【対処法2】睡眠の質を高める

産後は、夜間の授乳などで睡眠不足になりがちです。

なかなかまとまった睡眠時間が確保できない分、できるだけ1回の睡眠の質を高めるように工夫しましょう。

以下の点を意識してみてください。

寝る前のリラックス習慣ぬるめのお風呂に入る、アロマを焚く、軽いストレッチをするなど、リラックスできる時間を作りましょう。
寝室の環境を整える暗く静かで、適温に保たれた寝室が理想的です。
カフェインやアルコールを控える寝る前のカフェインやアルコールは、睡眠の質を低下させる可能性があります。
昼寝を活用する夜間の睡眠不足を補うために、赤ちゃんが寝ている間に短時間の昼寝をすることも有効です。

可能であれば、家族に協力してもらい、まとまった睡眠時間を確保することも検討しましょう。

十分な睡眠は、ホルモンバランスに直接作用します。

【対処法3】適度な運動で心身をリフレッシュする

適度な運動は、ホルモンバランスの乱れで不安定な心身をリフレッシュできます。

体調に合わせて、無理のない範囲で運動を取り入れましょう。

ウォーキングやストレッチなどの軽い運動でも、心身のリフレッシュ効果が期待できます。

また、運動には、血行促進効果もあるため、リフレッシュだけでなくホルモンバランスを整えるため直接的に役立ちます。

まずは、手軽にできる産後ヨガや骨盤体操などがおすすめです。

ただし、産後の体はデリケートな状態なので、必ず医師と相談しながら進めるようにしましょう。

体調が優れない場合は、無理せず休息を取ることが大切です。

【対処法4】リラックスできる時間を作る

育児中は、自分のための時間を作るのが難しいかもしれませんが、意識的にリラックスできる時間を作りましょう。

たとえば、以下のようなことを試してみてください。

  • 好きな音楽を聴く
  • アロマを焚く
  • 読書をする
  • マッサージを受ける
  • カフェでゆっくりお茶を飲む

短時間でも良いので、心身をリラックスさせる時間を持つことで、ストレスを軽減し、ホルモンバランスを整えられます。

趣味に没頭したり、友人や家族とのコミュニケーションを楽しむことも、ストレス発散に効果的です。

【対処法5】家族や友人とコミュニケーションを取る

ホルモンバランスが乱れているときは、一人で悩まずに、家族や友人と積極的にコミュニケーションを取りましょう。

育児の悩みや不安を打ち明けることで、気持ちが楽になることがあります。

また、共感やアドバイスをもらうことで、新たな解決策が見つかることもあります。

家族や友人と話せる時間が少ない場合は、地域の育児サークルに参加するのもおすすめです。

誰かと話すことで、孤独感を解消し、精神的な安定を保てます。

もちろん、悩みを共有できるパートナーと協力して育児に取り組むことも、非常に重要です。

【対処法6】日光浴でセロトニンを活性化させる

日光浴は、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンの分泌を促進する効果があります。

セロトニンは、精神安定や睡眠の質を高める効果があり、ホルモンバランスを整えるのに役立ちます。

天気の良い日には、短時間でも良いので、日光を浴びるようにしましょう。

ただし、強い紫外線は肌荒れや抜け毛・薄毛の原因になるため、紫外線対策は忘れないように注意が必要です。

特に夏場は日焼けによって炎症が起こるリスクが高まるため、日焼け止めを塗ったり、帽子をかぶるなどの対策を忘れずに行いましょう。

【対処法7】適切なサプリメントを摂取する

食事だけでは不足しがちな栄養素を補うために、サプリメントを活用するのも効果的な方法です。

産後のホルモンバランスを整えるのに役立つサプリメントには、以下のようなものがあります。

葉酸赤ちゃんの成長に欠かせない栄養素であり、産後の女性の体調回復にも役立ちます。
鉄分産後は鉄分が不足しがちなので、鉄分サプリメントで補給しましょう。
カルシウム骨や歯を丈夫にするだけでなく、精神安定作用もあります。
ビタミンDカルシウムの吸収を助け、免疫力向上にも役立ちます。
DHA・EPA赤ちゃんの脳の発達をサポートするだけでなく、産後の女性のメンタルヘルスにも良い影響を与えます。

ただし、授乳期間には摂取を控えるべきサプリメントもあります。

サプリメントを摂取する際には、必ず事前に医師や薬剤師に相談し、適切な種類と量を守るようにしましょう。

産後の髪トラブル時に摂りたいサプリメントの選び方や、食事で栄養を摂れるかんたんレシピについては、以下の記事で詳しく解説しています。

【対処法8】専門家に相談する

セルフケアで症状が改善しない場合は、専門家に相談することを検討しましょう。

産婦人科医、助産師、カウンセラーなどに相談することで、適切なアドバイスを得られます。

場合によってはホルモン補充療法や漢方薬など、より有効的な治療を受けられます。

一人で抱え込まずに、専門家の力を借りることも大切です。

早めに相談することで、症状が悪化するのを防ぎ、早期回復につながる可能性があります。

まとめ|産後のホルモンバランスを理解して適切な対策を立てよう

産後のホルモンバランスは、出産を終えた女性の体に大きな変化をもたらします。

これは、誰にでも起こりうる自然な現象です。

しかし、放置しておくと、心身にさまざまな悪影響を及ぼす可能性があります。

本記事を参考に、産後のホルモンバランスについて正しい知識を持ち、適切な対策を立てることで、健やかな産後ライフを送りましょう。

もし、産後のホルモンバランスについて悩んでいる方や、体調の変化で不安を感じている方は、専門医にご相談ください。

専門家のアドバイスを受けることで、安心して育児に取り組めるはずです。

ABOUT US
五藤 良将(ごとう よしまさ)
五藤 良将
経歴:千葉県立東葛飾高校卒、防衛医科大学校医学部卒。その後に自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどの勤務を経て2019年9月に継承開業に至る。

研究分野:糖尿病、AGEs、動脈硬化

免許・資格:
• 医師免許、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医、日本医師会産業医、日本美容内科学会評議員著書、論文所属
• 医療法人社団五良会 竹内内科小児科医院 院長
• 医療法人社団五良会 理事長

専門領域:
• 医療 > 外科・内科以外の診療科 > 皮膚科
• 医療 > 外科・内科以外の診療科 > 美容皮膚科